どう 釣れてますか?


 ありがたいことにタタリに遭わずに朝を迎えることができた。となるとやっぱり恒例の朝の散歩だ。さて今日はどっちへ行こうかと思ったが、昨日と同じアムール河畔ということにして、ただし昨日は堤防の上を歩いたが、今朝は下に降りて水辺を歩いてみることにしよう。

30センチ級の魚を何尾も釣り上げていた
 今朝も相変わらず釣り人が何人もいる。ソ連は男女平等の国で、女も男と同じ仕事をしてよく働く。商店の売り子はもちろん、バスの運転手や力仕事の現場でも女性は働いていた。そのうえさらに家事労働があるわけで、男連中がこうやって釣りをしていることを思えば女のほうがはるかに働いている。目下ソ連の大きな社会問題は離婚率の高さだというが、確かに女が男の隷属物ではない社会では妻の座にしがみつく必要はない。僕としては、男がもっとぐうたらになって女の隷属物になる社会に変容すれば離婚率が下がってくると睨んでいるのだが・・・やっぱり捨てられるかな。
 旅行者の無責任な発言はさておき、一人の老人に近寄ってみた。そばに寄って気づいたのだが、竿を使わずに直接糸を持つのがこの辺りの流儀のようだ。
「ドーブラエ ウートラ(お早う)。魚を釣ってるんだね」
 釣り師、特に釣れている人に対しては、何国人であってもコミュニケーションできるという確信めいたものがあったが、案の定この老人とも言葉は通じないが、なんとなく会話が成立した。老人の後ろに置いてある空き缶を覗き込むと5センチ程のタナゴのような魚が数尾入っている。ありゃ、釣果無しか、これは気まずくなるな。「そこじゃない、バッグの中だ」と言うので隣のリュックを見ると、3〜40センチ級のちょいと顔付きの尖ったサカナが何尾も入っている。
「ハラショー、すごいじゃないか」
「どうだ、あんたもやってみるか?」
 と糸を僕に渡してくれた。おそらく先にはルアーがついているのだろう、振り子のように手を振りながら、ルアーを引いたり流したりしながら魚がかかるのを待つというわけだ。
「そうじゃない。もっとゆっくり、大きく振るんだ」
 たかだか数分で釣れるわけはないが、老人の獲物の数を思い出すと、ひょっとしたらという気にもなってくる。僕は糸を持つ指先に神経を集中したが、やっぱりアタリはなかった。
「やっぱり駄目だな。残念だがもうホテルに帰らなくちゃ。でも面白かったよ、ありがとう。スパシーバ」
 街の人と一緒に遊べたことで充分嬉しかったが、でも、やっぱりアタリを味わいたかったな。