早起きは3ルーブルの得


もう、遅刻しそう
 朝食が9時からなので、ハバロフスクでもイルクーツクでも、ホテルに泊まった翌朝は散歩をするのが日課だった。道路清掃のおバアちゃんや、勤め先に向かう人たちの姿を見られるのもこの時間だ。親子で連れ立って歩く人も多い。以前は日本でもよく見かけた風景なのに、いつの間に見なくなったんだろう。
 空気はピンと張りつめていたが、旅先ということで気が張っているせいか寒くはない。それなのに、すれ違う街の人たちは皆コートを着ているのでびっくりした。日中でもマイナス20度を下回るという厳しい冬を越してきた人たちだから、これぐらい寒さのうちに入らないかと思っていたのに・・・。

 イルクーツクで楽しい出来事があった。大通りから一本入った道を歩いていると蹄の音がした。見ると前方から馬車がやって来る。この街で馬車が見られることもあるとは言われていたが、昼間見かけないのは自動車に気兼ねしているのだろう。交通量の少ない朝ならではのめっけものだ。朝のしじまを破って響く蹄の音が心地よい。
このビルが背景になるように
走って戻った

 そろそろホテルに戻ろうと歩いていると、マンホールの蓋を開けて何やら作業中という現場に出っくわした。かねがね僕が興味を持っているのはマンホールの中身ではなく蓋の意匠なのだが、これも滅多に見られないチャンスと思って近寄ってみた。
「これこれ、地下の施設は国家機密である。外国人近寄るべからず。あっち行けしっしっ」
 と言われるかも知れないと思っていたのだが、追っ払うどころか、周りで作業を見守っていた一人は、僕が覗きやすいように場所を空けてくれ、肩から提げたカメラに気づくと中の写真を撮ってみろと言う。
やあ、この街は愉しかったかい
「いいのかい?」
 そう尋ねると「いいとも」と言うように笑顔を見せ、穴の中に向かって何やら叫んだ。
「いま、ヤツが顔を出すから、そしたらそこを撮れよ」
 しかし、いくら声をかけても誰も出てこない。ヘンだなあと顔を見合わせると、もう一つ先のマンホールからオジさんが顔を出し、人なつっこい笑顔で手を振った。まったく、どいつもこいつも茶目っ気のある連中だ。
「なんだ、そっちかい」とカメラを向けてパチリ。朝の街角のスナップ。

 最後に気のいい連中に会えて、イルクーツクの思い出は楽しく締めくくれた。
「スパシーバ。ダスヴィダーニャ!」