窓拭き作戦敢行


停車時間を利用してこまめに点検
三婆と女医サン。丸顔の車掌はこのあと活躍する
 ウラン・ウデが近づくと、僕たちの車両の日ソ旅行社のツアーに参加していた鉄道ファンらしい連中はそわそわしていた。鉄っちゃんにとって、ここは重要な駅だ。北京発モスクワ行きの列車は、モンゴルの首都ウランバートルを経由してこの駅でシベリア鉄道に乗り入れる。世界最長のシベリア鉄道といっても、所詮ロシア号は国内列車だ。そこへ行くとこちらは国際列車、ヨーロッパの連中にはむしろこちらのほうがアジアへ行く安い列車として有名だという。最近日本人も乗れるようになったとかで、去年『週刊朝日』でルポを載せていたが、北京から東ベルリンまでのチケットが4万円(!)くらいだったと思う。ちなみに、このルポは世界一周を26万円でおさめていた。宿、食事、観光込みで、だ。ただしスタートは神戸から。東京−神戸の汽車賃を入れると大幅に費用が膨らむ。
 なんだか僕もそわそわしてきて、列車がスピードを落とし、左右に線路の数が増えてきたので駅だと思ってデッキに行ったのだが、なかなか停まらない。窓の外を見ると、大きな街だ。種村サンの本には「チタ以来の町並み」と書いてあり、チタは「ハバロフスク以来の大都市」とある。ハバロはばたばたしているうちに出てしまったし、チタは今のロシア号のダイヤじゃ夜明け前のぐっすり眠っているうちに通過してしまっていたので、列車の窓から見る初めての大都会ということになる。いやあ、大きな街だなあと感心しているうちにようやく停車した。車掌が「まったく気の早い日本人だねえ」苦笑したかどうか、ステップを降ろすのももどかしくホームに降りてみた。ありがたいことにホームは右側だ。
ハリー、
土産話がまた増えたね

 どうして右ホームだとありがたいかというと、

  1. この日の午後、バイカル湖が右側に見えてくる
  2. 僕たちの12号車は右側がコンパートメントになっている(車両によっては逆向きで左側がコンパートメントというのもある)
  3. 窓は開かないうえ、かなり汚れている
 以上の理由から、右ホームの駅に着いたら窓を拭こうと狙っていたのだ。さっそくウェットティッシュを持って自分たちの窓の下・・・そう、下なんだ、前じゃない。この「じゃない」というところに厄介な問題がある。ホームは低いし列車はデカい。手を伸ばしても窓の一番下に触るのがやっとだ、ということは日本を出る前から知っているし、対策も当然知っている(宮脇サンの本にも出ていた方法だ)。まあ知らなくたってすぐに気がつくと思うが「肩ぐるま」が一番いいのである。これで窓の下半分はなんとかカバーできる。それでも上の方は無理だが、コンパートメントの座席に座って外を見るぶんにはこれで充分だろう。
 染み込ませた薬品の影響か、ウェットティッシュでは拭きむらができて曇った仕上がりになってしまうので河野サンが持って来た「水で濡らしただけのタオル」に切り替える。年長者に乗っかるのは気が引けたが、体重の絶対値からいって僕が上になり、タオルでも若干拭きむらは残ったものの、まあこんなもんでいいんじゃないですかと一丁上がり。見ると隣の窓でもモリソン氏が新聞紙のようなものを持って手を伸ばしている。オーケー、そっちも片づけよう。

 実は、ハバロフスクを出て間もなくの頃、デッキにあったホウキの柄の先に雑巾を付けて窓を拭くという姑息な手段をとった連中がいたのだ。しかし、やったことがある人なら知っていると思うが、あれは一点にだけ力が入ってしまい「拭き取る」というよりは、やはり「棒の先でこすっている」程度のことしかできない。ちっとも綺麗にならなかったのだ。
 これからシベリア鉄道に乗りに行く人は、ぜひとも窓拭き用のゴムのワイパーを持って行くことをお奨めする。もちろん、長い柄の着いたやつだ。「荷物になる」「税関で訊かれたらどうする」という心配もあるだろうが、持って行けばそれだけの価値は充分にある。駅に着くたびにそこいらの窓をどんどん拭いてゆけば、きっと周りの乗客に感謝され、食べ物を分けてもらえるだろう。

 しかし、何でこんなに窓の汚れた列車を平気で走らすんだろうと疑問に思うだろうが、僕は答を知っている。誰かが「ガラスがはまっていれば、それでいい」と言ったんだ。