愛しのナターシャ


 僕たちが行く食堂車のウエイトレスは二人いて、一人はいつも制服を着てキリッとしたオバさんで、もう一人はTシャツ姿の愛くるしい娘であった。この娘(ナターシャと呼ばれていた)は、つい油断したらしく、まだ若いのにすでに太り始めており、よく見ると愛くるしいというよりは暑苦しいと言えなくもないけど、とにかくこの二人のチームが、仕事に忠実な車食主任と、それにヘイコラ仕える高卒の新米という感じに見えて仕方がなかった。
 この、僕の勝手な見立てはナターシャがいつも面白くなさそうな顔をしているせいでもあるのだ。料理を運んでくる時もむっとした顔をして、でも嫌そうではないし、やっぱり「面白くない」という微妙で複雑な表情なのだ。そりゃ金満日本人が無責任にワイワイ言ってる中を、揺れる車中で皿を持ってサービスして回るなんて面白くないかも知れないよな。
 勝手にそんなことを思いながら食事を終え、出入り口のそばに立っていたナターシャに声をかけた。
「スパシーバ」
 ニコッとした彼女の笑顔の可愛かったこと。そうか、やっぱりあの仏頂面は営業用(?)だったんだよな。

 3日目の昼食時、いつものようにあらかじめ飲み物の好みを一同に尋ねた後、まず紅茶
を配っていた主任オバさんは、たまたま僕の直前でトレーの上の紅茶がなくなってしまったので次のを取りに行き、うっかり僕を抜かして隣のテーブルから配りだした。その後コーヒーを配りだして、当然まだ飲み物が届いていない僕のところにも置こうとしたので、
「ニエット。ティー、プリーズ」
 キッチンに戻り、ナターシャに「あそこに、あとから注文を変える客がいるんだよ。お前持っておいき」というように指図した。するとナターシャはトレーを使わずに、僕のためだけの一杯を捧げ持って来てくれるのだが、こちらは勝手に継母にいじめられるシンデレラ(ちょっと太めだけど)に見立てているので、つい優しい言葉をかけてしまうのだった。
「ダー。スパシーバ」
 いやあ、彼女は本当に嬉しそうな顔をするものだから、僕の妄想は限りなく広がってゆくのである。

 ・・・おっと、あくまでも見立てですよ。本当は二人とも職務熱心ないい人だったんだから。