初めて来た街


インツーリストのバス
排気管の向きが変えられる
 インツーリスト差し回しのバスに乗ってホテルに向かう。このバスは今流行のハイデッカー車。ハンガリー製のなかなか立派な物だが、市内の一般のバスはどれもオンボロ。昔、1960年代の後半、米軍キャンプなんかでよくこんなのを見かけたっけ。バスもそうだがタクシーも壮絶。たった今カーチェイスをやってきましたというようなベコベコのやつが平気で走っている。物を大事にするのは結構だが、修理ぐらいはしろよ、客商売だろ。・・・という感覚が通用しない国に来たんだなぁ。乗れればいいじゃないかと言われればそれまでで、文句があるなら他社<ほか>へ行ってくれったって、社会主義だから一社独占、競争の原理が働かないとこうなるのか。
 市バスには乗客が大勢乗っていた。日が高いのでピンとこないが時計は確かに7時台だから勤め帰りの人たちだろう。住宅地にさしかかると小さな公園で遊ぶ子供たちや乳母車を押して歩道を歩く夫婦者の姿が目に入り、心が和む。何だか古い松竹映画を見ているようで、「庶民」という言葉が頭に浮かんだ。
 夕暮れの街のたたずまいというのは、どこへ行っても僕は大好きだ。日本中どこへ行っても懐かしい気分になるのだが、初めての外国の街(あまり暮れてはいなかったが)でもやっぱりそうだった。ハバロフスクで懐かしさを覚えたのは、夕方の効果だけではない。トロリーバスや路面電車など、幼い頃の記憶を呼び戻すものがあり、自動車だって60年代のトヨペット・コロナやプリンス・スカイライン、日野コンテッサ(あのトラックメーカーが乗用車を作っていたのを、今の人は知らないだろう・・・と思っていたら、ソ連から帰って間もなく勤め先の近くですれ違った)に良く似たのが走っている。しかし、ラーダ社の新しいハッチバック車は5年ほど前のファミリアやミラージュを思わせる直線的なデザインで、これはスマートでカッコ良かったと、ソ連自動車産業の名誉のために付け加えておく。

トロリーは均一料金、5カペイカ(約11円)
 だんだん市街地に入ってくる。古い建物が並んではいるものの、ざわついた活気を感じさせる中心街は「ソ連の今」という第一印象。ハバロだけしか見てないし、ここは外国に対して開かれた街だから特別なのかも知れないが。
 空港からずっと、道路脇のポールなどに赤い旗が飾られていて、さすが共産党の国だと思ったが、考えたら今日は4月29日だ。メーデーに備えて飾りつけているのだと気づく。後で聞いたのだが、ロシア人にとって赤というのは美しいもの、愛しいものを表す色だそうで、決して闘争のシンボルではないそうだ。それを聞くと、ソ連のいたるところで見かける「МИР(ミール:平和という意味)」というスローガンとの結びつきがよく判る。日本でもあちこちに「世界人類が平和でありますように」というスローガンを見かけるが、あれは民間(?)がやっているわけで、国家を挙げてこれほど平和平和と唱えている国はソ連が一番だと思う。もともとロシアという国は周囲から侵略の脅威にさらされていた過去を持つ。だから潜在的に平和を願う気持ちが強いのだろう。まあ、政策的にソビエト政府がいう平和の概念と、それを押しつけようというところに国家間のぎくしゃくが発生してきたわけであるが。

夕暮れの公園を訪ねると・・・
 アムール川にほど近いインツーリストホテルのロビーは大勢の人、それも圧倒的に日本人で混みあっている。これだけ日本人が多いとホテル内のあちこちに日本語の掲示が下げられ、フロントの壁には例の「世界人類が・・・」まったく我が同胞のやることは素早い。
 パスポートを預け、ルームカードと鍵を受け取る。部屋は2階とのことだが、フロントやロビーのあるのが0階で、その上に関係者以外立入禁止みたいなA階というのがあって、さらにその上から1階2階と始まるので実質4階になる。「エレベーター待つより階段で行こう」なんて言うと、下りはともかく、上りは大変な目に遭ってしまう。
 客室階のエレベーターホールの隅に机が置いてあって、このときは無人だったが、ここには鍵オバサンいて、出かけるときにはこのオバサンが鍵を預かるほか、このフロアの宿泊サービス全般を担当しており、このオバサンと仲良くしておけばホテル内の生活が楽であるという、まあ、病院のナースステーションにどっかと居座った婦長さんみたいなもんだ、と聞いていたのだが、結局最後まで机は無人で、この先のイルクーツクでもそうだったから、どうも合理化されて消えたらしい。鍵はフロントに預ける方式になり、愛想がないのでビジネスホテルに泊まったみたいだ。
 同室になった前田氏が素早くバスルームをチェック。お湯は出るか、バスタブに栓はあるか・・・お湯はちゃんと出るし、栓の方も心配いらないことが判った。栓どころかバスタブそのものが無い。つまりシャワーだ。食事の時に各部屋の状況を報告しあったら、我々の一行でバスタブ付きの部屋に当たった人は誰もいなかったので、貰い湯もできない。明日から3日に渡る汽車旅なのだが。
 食事まではまだ時間がある。少し外でも散歩してくるか。