アエロは世界一の航空会社


ツポルフ154
164人乗り。航続距離5000km、時速945km
 さて、我々が乗り込むのは先ほど屋上から見ていたおっかなそうな爆撃機ではなく、ボーイング727を少し大きくしたようなツポルフ154・・・160人ばかり乗れるらしい。今日はチャーター便だというので回送してきたのだろうか。さっきは全然見かけなかった。
 誰もが向こうに行ったらもう写真は撮れないと知ってか、飛行機の前で記念撮影。ぼくも近くにいた人に頼んでシャッターを押してもらった。こういうとき、渡り廊下のない空港はありがたい、絵になる。機体中央のタラップを昇っていよいよ機内へ。空港ロビーで見かけた各旅行会社の勢力分布から推量すると、どうも我が社は不利かなと思ったのだが、案の定、最後尾の一角が割り当てられていた。かなりくたびれた椅子だが、こんなことぐらいでは驚かない。この前最後に飛行機に乗ったのはもう6年も前の国内線だが、あの時の椅子は立ち上がると尻の形にへこみが残ったものだ。だからこの程度の椅子でも驚かないが、それよりもびっくりものなのは軽く押しただけで背もたれがバタンと前に倒れてしまうことで、全部倒すと機内はたちまち大広間になってしまう。もし飛行機がすいていれば前の背もたれを倒して足を投げ出すことができるのだが、もちろんそのためにあるのではない。いざという時にはソ連全土に何百機もあるアエロ機が兵員はおろか物資の輸送にも使えるという話があるが、どうやらこちらが正しい使用法らしい。これならミサイルだって運べそうだが、どうやってミサイルを搭乗口から入れるかは、地下鉄に電車を入れるより難しそうだ。
 ふと上を見ると天井の破れをふさいだ跡があり、数えたら後部客席だけで5個所もあったが、気圧隔壁が破れてなければそれでいいではないか。

街の中で見かけた看板
アエロはソ連各地で活躍しています
とでも書いてあるのだろうか
 定刻を少し遅れて13時20分に離陸。まだ上昇中だというのにベルト着用のサインが消える。気の早いパイロットだ。
 やがて飲み物サービスが始まった。ワゴンの上に茶色い瓶が見えたので、てっきりビールだと思い、この先ビール事情が不安な国なので飲めるときには絶対に飲んでおこうと思ったらミネラルウォーターだった。くやしいのでソ連では高級な酒といわれるシャンパンを頼む。他にはコーラ(コカ・コーラだった。それも日本製の)があった。
 続いて配られた食事は白い紙箱に入った洋風弁当とでも呼びたくなるようなもので、パンの他にはソーセージ、サラミ、鳥の唐揚げ、チーズ・・・ビールのつまみとして絶好の物ばかりじゃないか。腹立つなぁ。新潟で積み込んだのだろうから当然と言えば当然だが、デザートのプリンと並んで銘菓『万代太鼓』が鎮座ましましたのは妙な気がした。そして、肉と野菜を分けるべく添えられたプラスチック製の笹バレンが「日本男児ここにあり」とアイデンテティを主張しているようで、何だかいとおしく感じられた。

 なんてくだらないことを考えているうちにソ連上空。通路側の席だったのであまり外の風景を気にしなかったのだが、だいぶ地面も近づいているようだからどれどれと覗いてみると、原野の中を川が何本も流れている。どれも腸捻転で苦しむヘビのように、文字通り蛇行していて、その脇には三日月湖も散在し、小学校の社会科の教科書に出ていた石狩川の名を思い出した。今の石狩川はどうなっているのだろう。日本の役人がこれを見たら真っ直ぐにしたがるだろうな。風間深志さんのバイクショップ『風魔』がアムール川カヌーツーリングの参加者を募集していたが、こっちに来たくなる理由がこれを見たらよく判った。ここなら、じっくりノンビリ楽しめそうだ・・・。
 突然アエロが急降下を始めた。形がB727に似ていたので離陸時に急上昇をするかと身構えたがそうでもなく、安心していたところにウラをかかれた。いや、凄いのなんの。そんなに早く家に帰りたいのか。そうだ、アエロのパイロットは軍人あがりが多いというから、こいつは元戦闘機乗りに違いない。しかしこれでもう大抵のジェットコースターには笑って乗っていられるぞ。いやぁまいった。ハバロフスクにどすんと落ちたのは15時10分、と言いたいが機内で時計を進めたので17時10分ということになる。
 ずらりと並んだアエロ機は壮観な眺めで、ひとつの空港にこれだけ飛行機が並んだのを見るのも初めてだが、それが単一の航空会社というのも凄い。そしてこれは広大なソビエト連邦に散らばる空港の中のひとつなのだ。アエロの会社概要のすべては公表されていないが、情報公開で発表されたら、世界の航空統計の各部門はアエロの金メダル独占ということになるだろう。
 なお、空港には1機、北朝鮮の飛行機もあったが、機種は我々が乗ってきたのと同じTU-154であった。
「ダスビダーニャ」
 出口で見送るスチュワーデスに声をかけると笑顔を返してくれた。よし、とりあえず僕のロシア語は通じそうだ。といってもたったの5タンゴだけどな。